小劇場ザ・ポケットが中野に地に生まれたのは1998年のこと。そして2000年には劇場MOMOが、さらに2009年にはテアトルBONBON、劇場HOPEが誕生しました。
これら4つの小劇場が隣り合う小さな劇場街を「ポケットスクエア」と命名。
演劇を愛してやまない、ポケットスクエア前支配人/現顧問・笠原玲子が、劇場への想いを語ります。
夢を実現するために、20年続けた劇場めぐり。
ポケットスクエアの運営団体である司株式会社は、私の主人が経営するビル管理会社で、いろいろなところにビルやマンションをつくっています。主人は「ただビルを建てるだけじゃ面白くないから、仕事として何か好きなこともやりたい」っていう想いが前々からあったんですね。
もともと主人も私も演劇が好きだったので、劇場を作ってみたいという気持ちはあったんですよ。劇場をつくることが夢だった。でも、どこにどうやってつくればいいのか…という気持ちがあってなかなか実現には至りませんでした。
そんなこともあって、ザ・ポケットができるまでの20年間は主人とお芝居をみながら、都内の劇場めぐりをしていました。あそこの劇場は何人くらいお客さんが入れて、トイレの大きさはどれくらいで、座席の椅子はどんな感じか…細かく見て歩いたんです。時には奈落(※)の底を覗き込んで劇場の人に怒られたり(笑)、いつもメジャーを持ち歩いていたので、劇場の階段の幅を測ってみたり、そんなことをしていました。
※劇場の舞台や花道の床下のこと。回り舞台や迫り出しの装置が収納してある場所。
使う人、観に来る人、ご近所。みなさんが喜んでくれる劇場に。
今ポケットスクエアがあるこの場所には、もとは会社の管理するアパートが建っていたんです。戦前からある古いアパートで、建て替えの話が出た時に「ここに劇場を作るのはどうだろう?中野ならいいんじゃないか」ということになって、具体的に考え出したんです。
今では何の営業をしなくても劇団のみなさんが申し込んでくださるようになり、「いつかポケットでやりたい」と目標にしてくださる劇団も増えてきました。劇場を使ってくださるみなさんがポケットをそのように育ててくれたのだと実感しています。
ですから劇場としても「常にきちんとしたものを提供しなくては」という使命感があります。ポケットスクエアの劇場は「使用料が他と比べて安い」というのも魅力の一つかと思いますが、いくら安くても中身が悪くてはダメですからね。
「いいものを安く提供すれば、みなさん来てくださる。」その考えのもとでやっていますので、設備が壊れていたり、使えない機材がないように、メンテナンスには常に気を配っています。また宿帳というものを作って、劇場を使った方からご意見をいただいて、直すべきところは改善するようにしています。
劇場周辺への配慮も大切にしています。まわりにご迷惑をかけないでやるのが私の一番の仕事といってもいいですね。ポケットスクエアは一年間ほとんど休みなく公演をやっていますから、周辺の方々も本当に大変な思いをされていると思うんです。
観劇に来たお客様にもご協力いただいて、なるべく路上ではなく館内で歓談してもらったりといった配慮は欠かせません。でも、公演のある日には劇団の人やお客様が周辺の商店街でたくさん買い物をしてくるという「よい面」もありますので、本当にご近所とは仲良くやっていきたいと思っています。
みなさんに育ててもらった劇場。そして、みんなが育っていく劇場。
1998年にザ・ポケットがオープンした時、それはもう苦労の連続!!でした。大変だったけれど、今ではいい思い出になっています。何せ演劇を見るのは好きだったけれど、運営するのははじめてでしょう。事務所に机ひとつないところからはじめて、劇場に関しても素人で本当にわからないことだらけ。「こんなこともわからないんじゃだめだ」って、さんざん周りから馬鹿にされつつ、たくさんの人に助けていただきました。私が人とのおつきあいが好きで、そこから人の輪が広がっていくのか、ポケットスクエアは、いまだにみなさんに助けていただきながらうまく成り立っているという感じがしています。
ポケットスクエアのすべての劇場の名前は「小さなところから大きく育ってもらいたい」という意味が込められています。私たちの劇場を使ってくださる方たちは、若い人たちが中心。私は彼らが一生懸命やっているのを見ることが好きなんです。たくさんの稽古を積んで劇場にやってきて、仕込み日から本番を迎えるまで、あんなに頑張って取り組んでいる姿を見ることができるのは、私たちの特権のようなもの。お金をいただいて舞台を見ていただくわけだし、そりゃあ真剣ですよ。そんな姿は本当にステキです。どんなものを作ってきてくれるのかも楽しみですし、彼らがどんな風に育っていくのかも楽しみですね。
そして、一番の課題は、この劇場で上演する舞台をもっと一般の人に見てもらいたいということ。それぞれの劇団のファンや関係者の人だけでなく、通りがかりの人や近所の方々、普通に「お芝居が好きだから」という人に、もっともっと、お芝居を見てもらえる劇場になりたいですね。
※本文内の敬称は2009年時点のもの